ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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空飛ぶダグラス・アダムス ~サン・ジョルディの日2017

毎年「とっておき」の本をご紹介する サン・ジョルディの日

今年の4月23日は折しも日曜日!
大切な人へ、ご自分へ、プレゼントを探しに本屋さんへ行くのはいかが?

さて、今年お贈り致しますのは……



ダグラス・アダムス/マイク・カーワディン
『これが見納め -絶滅危惧種の生きものたち、最後の光景』


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著者は熱狂的なファンを持つ『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズで知られるSF作家。
そして、モンティ・パイソンのスケッチをグレアム・チャップマンと共に執筆している脚本家。

思いっきり余談だが、私は「空飛ぶモンティ・パイソン」の第2シリーズ「バカ歩き省」が好きだ。
天気の良い日に散歩していると思わずバカ歩きしたくなる……けど、やらないよ!!

本書との出会いは動植物に関するコーナーを バカ歩きしながら ブラブラしていた時。
「ん?」と目を引いたのはタイトルではなく、著者名だった。
場違いな……というのが失礼にも正直な感想。
いや、彼に対して何が失礼に当たるのかよく解らないけれども。


本書はダグラスが動物学者のマーク・カーワディンと共に、絶滅危惧種を「これが見納め」とばかりに見に行くという不謹慎な(?)ルポルタージュだ。
世界中を旅する様は、まさに「空飛ぶダグラス・アダムス」なのである。
写真も、噴き出さずにはいられないキャプションつきでたっぷり載っている。

こんなに深刻なテーマなのに、全ページが笑える。
笑えないページが本当にない。
人前じゃ読めない。
ホントに。




「棒切れテクノロジー」 アイアイ(マダガスカル島)
このアイアイとの出会いこそが旅の始まり。
アイアイを目にしたとたん、アダムスは「一気に時間を遡り、原始に還ったかの様なショックを受けた」と記している。
この感性こそが、本書の根幹だ。


「ここにチキンあり」 コモドオオトカゲ(インドネシア コモド島)
前半、コモド島に着く前の大胆不敵な冒険旅行に大笑い。
一転、後半のコモド島での出来事には血が凍るような思いがした。
コモド島で一番おぞましいと感じたのは人間だったから……。
しかし、コモドオオトカゲにヤギを与え、それを食べさせる場面を見せるという「ショー」が保護活動の資金となっているのも事実。
消える一つの命を笑いながら写真に撮る観光客。
ショーの後、マングローヴの木の傍に腰を下ろし、「わたしはふいに、ものすごく歳をとった様な気がしてきた」というダグラスのやりきれない思い。
その、身体から力が抜けていくような感覚が、とてもとても伝わってきた。


「豹皮のピルボックス帽」 マウンテンゴリラ/キタシロサイ (ザイール)
ザイールでまずアダムスを出迎えたのは豹の一部。
ザイール共和国大統領の頭を飾る豹皮のピルボックス帽の写真だった。

そして、野生のマウンテンゴリラとの出会い。
ここでダグラスは、出会ったシルバーバックに「確かな知性」を見る。
その後では人間といる方がイラつきを感じる程に。

キタシロサイは、密猟によって絶滅の危機に瀕している。
1980年に1000頭、5年後には13頭、2006年には4頭……。
その後、野生の個体の目撃は無いという。
「密猟」は人間という存在を最も忌まわしく、嫌悪させる言葉のひとつだ。
ダグラスが見た「ハイエナとケンカしているサイ」は、まさに「見納め」だったのだ……。


「夜の鼓動」 カカポ (ニュージーランド スチュアート島/コッドフィッシュ島)
鼓動、とはオスのカカポが行うブーミングという求愛の声。
声というにはあまりに低音。
そして、3か月間毎晩7時間聞こえる事もあるという。
カカポ捜査員に抱かれるカカポの姿は「聖母子像のよう」な神聖さが写真からも伝わってくる。

現在では肉食獣の少ないスチュアート島やコッドフィッシュ島へ移される保護活動が行われているが、安心できる状況にはない。


「盲目的恐怖」 ヨウスコウカワイルカ (中華人民共和国 揚子江(長江))
本書のなかで唯一保護活動が実現に至らず、「絶滅」という見方がされている。
プロジェクトはあった。
だがそれは天安門事件の前だったのだ……。
プロジェクトが、その一連の事件の渦に飲み込まれたのは想像に難くない。

水中の音を録音する為に“あるもの”を調達しようと奮闘し、蛮勇をふるうくだりは噴き出さずにはいられない。
しかし、水の中はそんな「奮闘と蛮勇」が虚しく思える程の環境だった。
耳をつんざく音、呼吸する度にさらされるスクリューの危険。
身も凍るような世界。
そんな揚子江において、ヨウスコウカワイルカがさらされている環境を知ったダグラスとマイクは、こんな会話をする。
以下はその要約だ。

「盲人がディスコで暮らしたらどうだろうって想像したんだ。ディスコっていうより、複数のディスコが競争で騒音を鳴らしてるところって感じかな」

「それよりもっと酷いんじゃないかな。イルカは音を使ってものを見るんだから」

「それじゃ、耳の聞こえない人がディスコで暮らすようなもんだね。だって、ストロボ光やレーザー光線だらけじゃないか。いつも情報の混乱が起きてるわけさ。一日か二日したら完全にわけがわからなくなって、方向感覚も失っちゃって、家具につまずきだすだろうね」

「それに、下水とか化学物質とか工業廃水とか合成肥料の問題もある。揚子江に排出されてて、水や魚が汚染されてるんだ」

「ということは、半分目が見えないか、半分耳の聞こえない人が、ストロボ光のショーをやってるディスコで暮らしてて、そこではトイレはあふれてるし、天井や通風機のファンがしょっちゅう頭に落ちてくるし、食べ物は傷んでるわけだね。きみならどうする?」

「管理会社に苦情を言うだろうね」

「イルカに苦情は言えないよ」




「レア(まれ)か、ミディアムレア(ややまれ)か」 (モーリシャス島/ロドリゲス島)
ロドリゲスオオコウモリは「ミディアムレア」。
ピンクピジョン、モーリシャスホンセイインコ、モーリシャスチョウゲンボウは「レア」。

「レア」を守る為に「ミディアムレア」には構っていられない。
モーリシャス島とロドリゲス島は、保護官にとって戦場の最前線のような場所だ。

保護官の一人はこう言う。

「ロドリゲスオオコウモリは何百匹もいるんだ。野生のモーリシャスホンセイインコは十五羽だ!こういうのを珍しいと言うんだ」

何百匹 いる。
十五羽 しか いない。
百単位で、「たくさんいる」。恐ろしい言葉である。
だが、これが現実なのだ。


最後に、リチャード・ドーキンスによる「序文」を引用させていただこう。

深刻なテーマだからこそ笑いの力を感じさせる、愛すべき、愛すべき一冊。


笑いと優しさ、全ページが心の琴線に触れる抱きしめたくなる一冊を、2017年のサンジョルディの日に。
愛すべき、愛すべき森羅万象に、ありったけの敬愛を込めて。







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