ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『悪魔が来りて笛を吹く』

金田一シリーズのなかでも、屈指のドロドロさではないだろうか。

今回の依頼者は、その椿元子爵の令嬢、美禰子。
なんともはや気丈なお嬢さんである。

依頼内容は、父の椿“元”子爵について。
“元”とつくのが斜陽感たっぷり。
そして、暗く落ちる“戦争”の陰。

美禰子の話しでは自らが作曲した、あるフルート曲を残して父である元子爵、椿英輔が自死を遂げた。
そのフルート曲こそ「悪魔が来りて笛を吹く」。

ドスぐろい血のにじみ出るような、呪詛と憎悪のメロディーなのだ。

しかし、椿英輔は死体確認後も目撃されていた。
愛用の黄金のフルートと共に。

父は本当に死んだのか。
自分に残されたメッセージ、そして曲をどう受け止めればいいのか……。
それが今回の依頼内容だ。

呪詛から浮かびあがる「火炎太鼓」の謎。
そして、椿子爵が見た「悪魔」とは?

滅びゆくアッシャー館を連想させるような、焼け残った椿邸もシンボリックだ。

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さて、ここからは作品のレビューとずれるが、全く関係がない事柄ではないと思うのでご容赦頂きたい。

私の大叔父は男爵だった。
当時は宮内庁からのお許しがないと結婚が出来なかった時代だ。
桐の箱に入った文書を見せてもらったことがある。
戦後“元”男爵となり、女中さんがいて、大きな犬を飼っていて、朝はトーストという生活。
一見優雅に思えるが「家より貧乏」だったらしい。
我が家の隣に住んでいたのだが、私が生まれる頃には土地を手放して郊外に引っ越してしまっていた。
斜陽そのものである。

しかしながら、私の親戚はやたらに陽気で、戦争中も戦後も「家は焼けちゃったけど生きてるからいいや」でやってきたようだ。
今も割と色んな事を「あっけらかん」と話してくれる。
だから、戦争当事者の話しが聞ける最後の世代として頭に叩き込んでいる事柄が多い。
そのひとつが「男爵」である。

戦後の没落貴族を身近に感じる一人としては、作者と別の意図で感慨深さを感じてしまう一冊なのである。





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