ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『晩菊 ―女体についての八篇』

安野モヨコが選び、「描きたい」と思った八編に住む女たち。
それぞれに挿絵が描かれる。
『さくらん』『バッファロー5人娘』、『鼻下長紳士回顧録』、と娼婦を多くテーマにする作家であり、女性なので興味深かった。



「美少女」 太宰治
“美少女”というのは“自分が美しい”と知っていて初めて完成するのではないかしら。
それは“美人”も同じ事で、「晩菊」に通じる様に思う。
「美少女」は、やがて「晩菊」になるのかもしれない。


「越年」  岡本かの子
平手打ちから始まる恋……。
なんだか凄い。
しかも、男から女に。それも顔に。突然に。

私まで引っぱたかれた様に驚いてしまった。
なんなんだ、この男は。
今の時代だと傷害罪である。
それでも、ロマンスとして面白く読めてしまうのが不思議だった。
やっぱり「時代」なのかなぁ……。


「富美子の足」 谷崎潤一郎
ごめんなさい。無理……。
足フェチなのよね、うん。
好きなのよね、女性の足が。
そして、同好の士を得て加速してしまったのよね、うん。
対象にされている女が、迷惑そうにしながらも冷めているのがなんだかリアル。
安野さんの挿絵が素敵で救われた……。


「まっしろけのけ」 有吉佐和子
好き!
ストーリーもそうだが、キリッとした文体が好きだ。
鮮やかに、文化と生命のバトンパスが描かれる。

一方は、サンドレスを着た大学生のお嬢さん。
一方は、江戸の風情を残した職人。
どちらも自分の居場所でスッと立っている。

若者は老人を、敬意をもって。
老人は若者に、瑞々しさを感じて。

どちらが良いわけでもなく、ありのまま、自然に。
繰り返されてきた生命と文化の繋がりが、ユーモラスで、哀愁を帯びて描かれる。
「生きていく」ってこういうことなんだな。


「女体」 芥川龍之介
なぜ、芥川はこの作品を書こうと思ったのか。
それが一番知りたい。
「なんだ。裸婦というのは存外美しいものだなぁ」とでも思う事があったのだろうか。
感想文なのか、これは。というくらいドライである。
安野さんが書いているように、ムッツリスケベなだけかもしれないが。


「曇った硝子」 森茉莉
読みにくいったらない。
二行読んでは一行戻る。
乙女が発した夢見る雲を、拾い集める様にして読んでいく。

主人公も、森茉莉も、困った人だなと思う。
ただ、それを少し冷静に観察している森茉莉の気配も感じられる様な気がした。


「晩菊」 林芙美子
美人が“美人を作っていく”作業が、とても面白かった。

老いた自分の元に、昔の男が来るという。それまでの2時間。
まず、風呂に入って、氷で顔をマッサージして上等のクリームを塗る。
化粧よりも効くのは少量の冷酒。
目元が紅く染まり、瞳が潤む。
着物の着付けも、より女らしく工夫し、爪の先まで「美しく見せる」ことを怠らない。
「女として見せる」ことだけを考える。

男とのやりとりも描かれているけれど、何よりもこの「女づくり」が面白い!
表紙を飾っているのは、この作品の挿絵のカラー版だ。
私は色をつける前の方が好みだな。


「喜寿童女」」 石川淳
阿部定が童女になっちゃった事件、という感じ。
八編のなかでは一番ストーリー性があって、読み物としては面白い。
しかし、「晩菊」の方がインパクトがあるので印象が薄い。

幽玄の世界と現実。
ジャンルとしては圧倒的に前者の方が好きなのに、並べられると違って感じる。
面白い読み方と発見があった。






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| 安野モヨコ | 19:43 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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