ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『魔女の素顔 人はなぜ空を飛べるのか』

ある夜、魔女に出会った。
「ハロウィーンだからね。ちょいと来てみたんだよ。最近は日本でも盛んだそうじゃないか」
「そうですね。ちょっと勘違いしてる向きもある気がしますけど……」
「そうかい。じゃ、ちょっと本物の魔法を見せてやろうかね」

魔女が杖を一振りすると、山盛りのお菓子が現れた。
コウモリ型のクッキーに手を伸ばすと、バサバサと音を立てて飛び立っていく。
ビー玉のようにキラキラ光るキャンディ。
大きなマシュマロをかじると、バターをたっぷり塗ってこんがりと焼きあげたトーストの味がした。
小さい瓶を手に取ると、魔女は慌てて制しながら言う。

「あ、それはダメだよ。前に身体の大きさが変わっちゃったお嬢ちゃんがいたからねぇ」
「そうなんですか……。あっ!きっとその子、アリスって名前ですね」

その他にも、動物と話しをしたり、私しか知らない秘密を言い当てたり。
私がその人を魔女だと確信するには十分な事が色々あった。

「さて、占いをしてあげるよ。これから家に来るといい」
「わぁ、いいんですか!」
「ちょっと待っとくれ。今、タクシーを呼ぶからね」
「えっ!?」
「あぁ……。生憎だけど、空は飛べないんだよ。いや、本当は飛べるんだけどねぇ……。魂しか飛べないのさ。その間、身体は死んだようになってしまうんだ」
「あの……、ホウキで飛ぶものかと思っていたので」
「ガッカリさせて悪いねぇ」

◆◆◆

どんなに魔法を見せてもらっても、ここでガッカリしてしまうのはなぜだろう。

本書は「飛ぶ」ことにスポットを当てている。
魔女は空を飛べるか否か。

「魂しか飛べない」いや、「魂だけ飛べる」というのは、「飛んだ」ことになるのだろうか。
ここがまた悩ましい。

イタリアには「ベナンダンテ」という男性たちが居て、魔女や魔法使いと戦っていたという記述がある。
ベナンダンテはホウキではなく、ウイキョウの茎で飛ぶ。
魔女はトウモロコシの茎だ。
ベナンダンテが勝てば豊作になり、魔女側が勝てば不作になる。
この悪い魔女は「ストレーガ」、男性の魔法使いは「ストレゴーネ」という。
名前の由来はストリーガ。
フクロウのことである。
甲高い鳴き声や、夜に活動する姿から「闇を知るもの」という魔女的イメージが定着したようだ。

また、「ベナンダンテ」は「シャツを着て生まれた」者だけがなれるという条件があった。
この「シャツ」とは羊膜、胞衣のこと。
そして、魂だけで活動する方法を得て、イタリアからドイツにかけてなかなかダイナミックな戦いをするらしい。

ただし、肉体の方は全くの無防備。
最悪の場合、魂が身体に戻れなくなってしまう。
家族にさえ、身体に触られることは勿論、見られることすら恐れたらしい。
なんだか筋が通っていて、私なんかはストンと胸に落ちるものがある。

「魔女裁判」なんかより、よっぽど分かりやすい。
中世のキリスト教はお仲間が「神秘体験」をすると「奇跡」とし、それ以外は「異端」として殺してしまう。

身の危険を感じたベナンダンテも、最初こそ正直に自らの体験を語っていたものの、魔女狩りが盛んになると発言を翻し「あれは嘘です」と述べていたようだ。
ここにはひとつ、強みがある。
空を飛ぶことはできるが、空を飛んでいる者を見ることはできないという事だ。
見えるのは「眠っている身体」だけ。
もしかしたら、ベナンダンテの戦いはまだ続いているのかもしれない。

◆◆◆

私が出会った魔女は、スマートフォンを取り出すとアプリを使ってタクシーを召喚した。
「便利だよねぇ、これ」
「……そうですね」
タクシーに乗り込んだ魔女はキビキビと道順を指示している。
運転手も手慣れたものだ。
もしかしたら、魔女と契約している会社なのかもしれない。
「そこの門で止めておくれ」
着いたころには深夜料金で結構な金額になっていた。
「日本のお金はエンっていうんだっけ?」
「お金も出せるんですか!?」
実は葉っぱだったりするのかな、などと思っていると
「いや、エンは無理だねぇ」
「えっ」
「悪いねぇ」
私は慌ててバッグから財布を取り出すと中身と料金の表示を見比べた。
しかし。
「あの……。カード、使えますか……?」

それから後のことは、あまり覚えていない。
占いの結果はそうそう悪くなかった気がする。
夢だろうな。
そうとも思うが、枕元にコロリと転がっていた蛍石は、お守りにと貰った記憶がある。
それに、財布のなかにはタクシーの領収書が……。


Happy Halloween!




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