ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

『遣手 吉原裏同心(六)』

吉原では、格子の高さで店の「格」が一目で分かる。
天井まで達しているのが「総籬(そうまがき)」で最も格が高く、遊女の最高ランクである大夫を抱えている。
その次が格子の高さが半分ほどの半籬(はんまがき)、またその下が小見世(こみせ)と続く。


隆盛を極める総籬「新角楼」では、二人の大夫、華栴(かせん)と白妙(しろたえ)が華を競わせていた。
いずれ菖蒲か杜若。
折しも季節は初夏の頃。

その影で、遣手のおしまが首を括った状態で発見された。
残された判じ物の花の意味するところは何か……。


やがて事件は片が付き、物語はなんと吉原の外へと広がる。
新角楼の主の助左衛門と、会所の頭取である四郎兵衛が、おしまの生まれ在所に遺髪を届けに行くという。
勿論、同道するのは裏同心の幹次郎だ。


妓楼で遊女を束ねるのは店の主だが、「遣手」と呼ばれる女性の奉公人の腕によるところが大きい。
遣手とは、年季が明けた元遊女の女性だ。
遊女から奉公人へ。
それも総籬の遣手ともなれば、出世も出世、大出世である。

当時でいえば三十は過ぎている年増なので「遣手婆」とも呼ばれた。
その仕事は多岐にわたる。
客の懐具合を読むのは勿論、酒の手配、遊女と客との間柄の把握、遊女見習いである「禿(かむろ)」の躾などなど。
主と遊女の間に立って、その妓楼の全てを差配する。
憎まれ役を買って出ることも仕事のひとつだ。


重要な奉公人だったとはいえ、弔いの為に総籬の楼主と四郎兵衛会所の頭が連れ立って吉原を留守にする、というのはちょっと現実的ではないと思うのだけれど……。
それはまぁ、それとして。
全五章をとおして随所に「情」を感じさせる連作になっている。
痛快さと、淋しさ。


寺に詣でて晴れやかな気分に浸る妓楼主に、四郎兵衛は釘をさすことも忘れない。

「(略)仏心は大事ですが、泥水に浸かり、闇に潜む覚悟を忘れてはなりませんぞ」

廓の主は「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」という人が持つべき規範を忘れたもの、「亡八者」とも呼ばれる。
対比としてか『南総里見八犬伝』の登場人物を思わせる名前もちらほら。


吉原の様々な面を、大門の外から、更には江戸の外から離れて見ることが出来てまた違った面白さがあった。





関連記事

| 吉原裏同心シリーズ | 06:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://cittagazze.blog.fc2.com/tb.php/449-8e2cd201

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT