ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『初花 吉原裏同心(五)』

浅草満願堂の「芋きん」をご存じだろうか。
子供の頃から私はここの「芋きんつば」が好きでたまらない。
焼いているところを見るのも好きだ。

なぜこんなことを書くのかというと、満願堂の「芋きん」が吉原の遊女達への人気のお土産のひとつであったからだ。
女性が甘いものを好むのは今も昔も同じこと、と少し微笑ましく思う。

さて、物語は「幹どの」こと神守幹次郎と、その妻の汀女さんが江戸に落ち着いて一年が経った頃。
桜がほころび始め、満開を迎え、葉桜になる。
二人が心から穏やかな気持ちで桜を愛でるのは豊後の国を逐電して以来だろう。
もしかしたら、おやつに「芋きん」を食べていたりして……。

だが、夫婦穏やかな楽しい時間は、裏同心としての危険と隣り合わせ。
今回は桜の下で起こった事件五編だ。

「いばり組」
「初桜」
「天紅の文」
「桜心中」
「葉桜千住宿」


本作も吉原独特の習慣や世相が描かれていて興味深い。
なかでも 「天紅の文」 はミステリ色が強く、面白かった。


吉原の風習は驚くことばかりだが、今回印象に残ったのは「女郎と客の心中」への対処だ。
例えば部屋で情死しようものなら事故物件状態になってしまうし、年季奉公からも逃げられてしまう。
店に大損害を与える行為であることは間違いない。
きっと早々に、ひっそりと投げ込み寺(浄閑寺)あたりに捨てられてしまうんだろうな、と思っていた。

しかし、吉原は「粋と意気」の世界

損害をも全て承知の上で
「花魁はようやり遂げんした」
と、そう誉めてやるのが礼儀であり、手向けだったのだ。

吉原の格の違いを如実に伝える一面である。


通常、粋人や通が花魁と交わす身請けの約束はお遊びだ。
「まことを通す」と言うものの、本当に実行しない「心中立て」は遊びの一種。
それだけ馴染みだという証なのだ。

まだまだ「ありんす国」のお遊びは多岐にわたる。
年季が明けたら夫婦になろう、という約束を書く「起請文」は七十五枚まで発行可能。
手練手管の一つだと客も承知していなければ大変だ。

他には「放爪」「入墨」「切指」「断髪」「貫肉」と、なんだがとっても痛そう……。
ただ、「切指」は飴細工を指に見立てて送ったりすることが多かったらしい。

死が遊びにすらなる世界。
本気だったのか、不器用だったのか、それとも無理心中か。

「花魁はようやり遂げんした」

手向けのことばには、十人十色の想いがあったろう。
「そこまで愛した人がいる」というやっかみ。
「死んだら終わりだよ」という現実。
私には想像もつかない色々な想いがあったろうと思う。


一貫して描かれる吉原の粋と意気
それは「女郎ではなく吉原の花魁なのだ」という女たちの自尊心の表れであるように思える。

冒頭で幹どのが出会う「身代わり佐吉」なる人物も加わり、吉原ばかりでなく江戸市中にも物語が広がりそうだ。





【浅草満願堂】 ではオンラインショップもありますよ~。
遠方の方も是非是非!
書いてたら食べたくなってきた(笑)

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