ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『小さなトロールと大きな洪水』

ムーミン・シリーズの第一作。

まず、登場人物紹介で不安にさせられる。
こんなことは初めてだ。

・ムーミントロールのママ
  どこかへいってしまったパパを心配している


パパよ……、何処へ……。
このことから、本のタイトルと相まってムーミン達がのっぴきならない状態にあることが分かる。
ムーミンパパについてママが言うには

「パパはいつでもどこかへいきたいと思っていたの。ストーブからストーブへと転々とね。どうしても満足できなくて、ある日、いなくなってしまったの。あの小さな放浪者、ニョロニョロたちといっしょに旅にでてしまったのよ」

そして、パパはニョロニョロに騙されたのだと言い切るムーミンママ。
いや……、十中八九ニョロニョロは悪くないだろう。
なかなか激しい両親である。
大変だなぁ、ムーミン。

特に魅力的な登場人物は、青い髪のチューリッパと、海のプディングをご馳走してくれる真っ赤な髪の少年。
この二人はうっとりするほど素敵だ。

面白いのは岩山の奥の年とった男の人が住む世界だ。
レモネードやミルクの川、菓子パンの小石、雪はアイスクリーム、木にはチョコレートやキャンディがなっている。
ヘンゼルとグレーテルも羨ましがるようなこの場所だが、なんと入る時はエスカレーターなのだ。
ムーミン達はちっとも驚かない。
森の中のファンタジーにメカニカルな物は存在しない、と思い込んでいた自分に気づいて私の方が驚いた。

ムーミンやスニフはこの場所に大喜びだけれど、ママはとにかくパパのところに行きたくて仕方ない。
荒れた海を渡り、降り続ける雨のなかを果敢に進み、洪水に流されてムーミンママはパパとの再会を果たす。
この時のパパの挿絵が、情けなくてなんかカワイイ。

この本の主役はムーミンママだ。
洪水はパパ探しのほんの一部であり、本書のタイトルは『ムーミンママ、どこかへ行ってしまったパパを探す』とかの方が合っているかもしれない。
ママはパパが大好きで、ムーミンに対しては「私について来なさい」状態だからである。

しかし、訳者のあとがきを読むと物語の存在理由が理解できる。
出版時期が第二次大戦直後だからだ。

家族一緒に居ることがどんなに大切で大変なことだったか。
特にどれだけの女性が夫を心配し、共に暮らせる毎日を望んだか。
これなくしてムーミン一家の生活は始まらない。

トーベ・ヤンソンにとって「洪水」とは、辛い時代の奔流を表していたのだろう。
だからやっぱり、『小さなトロールと大きな洪水』がこの本のタイトルにふさわしいのだ。




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