ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『レキシントンの幽霊』

あっ、読みやすい!
今までなぜか読みにくかった「村上春樹」。
でも、この短編集は私の好きな幻想というフィルターを通しているせいか、すんなり読めた。

不思議だけれど、誰もが持っている心の影……のようなものが全体に漂う。
幻想的に、それでも現実感を伴って迫ってくる短編集だ。


「レキシントンの幽霊」は著者を思わせる「僕」が体験した不思議な家の物語。
幽霊とはナニか。どうも普通の(?)亡霊の類ではない様にも感じる。
その家の住人の個性も相まって魅力的だ。


「緑色の獣」に対して「なんて酷いんだろう」と思う反面、納得もする。
だってね、女って怖いのよ?
獣さん、ご愁傷様。


「沈黙」は重たい。
幻想なんかではない、リアルな恐怖だ。
自分ではなにも考えない人間が集団で生む唯一の悪しきもの、それが「沈黙」なのではないだろうか。


私は氷男と結婚した。
という魅力的な書き出しで始まる「氷男」
氷は過去だけを閉じ込める。
未来の氷を見ることが出来ないのと同じに。
人間の家庭は温かいものだ。
氷の世界に足を踏み入れてしまった「私」も氷ってゆくしかないのだろうか。


そんな哀しい気持ちでページをめくると「トニー滝谷」という昭和のコメディアンのようなタイトルが目に飛び込んでくる。
思わず笑ってしまったのだが、いやいや、こちらも孤独で切ない話しなのだ。


「七番目の男」が語るのは波と親友のこと。
男は恐怖と向き合って初めて真実を得る。
怖いものを真正面から見るという事は「沈黙」にも通じているように思う。
何物にも目を閉じてしまわない様にしたい。
一番大切なものを失ってしまうから。


「めくらやなぎと、眠る女」は、幻想的なのかと思うと現実的で、でもやはり幻想的なのだった。
耳の不自由な少年が耳のことで同情される度に、ある映画のセリフを思い出すという。
私にも持病がある。自分に置き換えてそのセリフを考えてみたのだが、しっくりこない。
でも、ひっかかる。
主人公がノスタルジックに思い出す「溶けてしまったチョコレート」のように、私の心に絡みつくのだ。




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