ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『帽子収集狂事件』

フェル博士は創元版がやっぱり好きだ。
人情味とチャーミングさがハヤカワ版に比べて良く伝わってくる。
博士のちょっとした動き、口調、周囲との物質的、心理的な距離感。

共通するのは読者との距離。
フェル博士の「ミステリ小説の登場人物である自分」という立ち位置だ。
この匙加減が絶妙。

ズームしたかと思えばズームアウトさせられる。
まさに、ミステリの読み方そのものを表しているようだ。

今回の舞台はロンドン塔。
歴史的に数多の恨みや血を吸ってなお建ち続け、現在では観光も可能な建造物。
飼育されている大鴉は、かつて刑死した人間の肉を食べていたとか……。
あな恐ろしや。

場所的なオカルト度合は、カー作品のなかでも屈指ではないだろうか。

そして、そこで死んでいたのが「いかれ帽子屋」である。
イギリスでしかあり得ないこの状況。
イギリスだからこそ映えるこの状況。

そんななかでも、フェル博士は通常運転。
おしゃべりなお嬢さんに

「わしがセイウチですよ」

なんて言ってたりする。
かわいい。

今回も色々なヒントが隠されていて、読み返して「あっ!」という楽しさがある。
それも楽しいのだが、今作の犯人については「あなたどうしちゃったの!?」という思いの方が強かった。

まぁ、それが終幕に繋がるのだけれど……。
フェル博士シリーズの醍醐味をたっぷり味わえた。
ウミガメのスープ、ご馳走様でした!






| J.D.カー/カーター・ディクスン | 10:41 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『ユダの窓』

ヘンリ・メルヴェール卿(H・M)法廷に立つ!

密室に存在する「ユダの窓」。
これ自体はさして難しくないと思う。
H・M卿がちょこちょこヒントをくれるし。


「いいや。それが本件の風変わりなところなんじゃ。あの部屋が普通の部屋と違っているわけではない。家に帰って見てみるんじゃな。ユダの窓はお前さんの部屋にもある。この部屋にもあるし、中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)の法廷にも必ずある。ただし、気づく者はほとんどおらん」


今回は裁判を進行しながらストーリーが進むので、それも楽しい。
H・M卿の大胆な手法を必死になって支える、いや、抑えようとする秘書のロリポップ嬢の奮闘ぶりが可愛くて好きだ。
描写はほとんどないのだけれど、躍起になってるのが伝わってくるのが凄い。
そのちょっとの描写でクスクス笑ってしまう。

語り手であるケンの妻、イヴリンもまた魅力的だ。
傍聴席での二人の会話で「ホラホラ、おじいちゃんってば、これはツライわよ~!」なんて言われると臨場感が増す。

とにかく今回はフーダニット、犯人当てに尽きる。
そして改めてタイトルを見ると……。
うわぁ、お見事!

カー作品はもう夢中になって何冊か読んでいるけれど、隙がなくてレビュアー泣かせだ。
でも、書きたいのだ。魅力的なのだ。
うーむ、がんばるっ。



 

| J.D.カー/カーター・ディクスン | 18:25 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『黒死荘の殺人』

「名探偵」は本の世界に数多存在するが、その個性ゆえに「会いたい人」と「関わりたくない人」に分かれる。

私の場合、ファイロ・ヴァンス氏(『ベンスン殺人事件』等)、C・オーギュスト・デュパン氏(『モルグ街の殺人』等)とは、あまり関わりたくない。
ちょっとでも何か言うと鼻で笑われそうで……。

話してみたいのは、エラリィ・クイーン氏(『エジプト十字架の謎』等)や、ドルリー・レーン氏(『レーン四部作』)である。
私がモタモタとしていても、こちらのレベルに合わせてくれそうな気がする。
国名シリーズの頃のエラリィ君なんて日本の文化について興味津々で聞いてくれるだろうし、レーン氏の朗々たるシェイクスピア劇の台詞は是非とも拝聴したいものだ。


さて、本作のヘンリー・メルヴェール卿(H・M卿)はというと……後者!
ちょっと覚悟(?)がいるけれど。
取り敢えず、日本酒でも持参しよう。

大きな口に禿げ頭。
象のような巨体。
足を机の上に投げ出して“腰を据えて考える”のがお得意のスタイル。
悪魔が逃げ出す程の悪態をつき、自惚れやで猥談の名手。

「とってもいやらしいお爺さまね」

この一言がぴったり。
部屋にジョゼフ・フーシェの肖像画を飾ったりして、なんかもうそれだけでキャラクターとしてインパクト大。
とにかく面白い爺さんなのだ。


さて、物語は語り手のケン・ブレークが友人からある頼まれ事をすることから始まる。
人によっては魅力的なお誘いかもしれない。

「幽霊屋敷でひと晩明かしてほしいんだ」

しかし、事案は幽霊の存在を確かめる事でなく、インチキ霊媒師の降霊会を見破って欲しいという事。
問題の場所は、かつてペスト(黒死病)患者を隔離していた石室だ。
離れに建つ完全な密室である。

屋敷に呪いをかけて死んだ男。
名はルイス・プレージ。
その凶悪な男が生前チラつかせていた短剣はロンドン博物館から音もなく盗まれ、屋敷との因縁が明らかになる。
そして起った「完全なる密室」での殺人。
しかも、被害者は盗まれた「ルイス・プレージの短剣」で血まみれになって殺されていた。


さあ、H・M卿が示して見せた答えは……!
「やられたー!」が犯人について。フーダニットの部分。
「えぇぇー?」っていうのがトリックについて。ハウダニットの部分。
ああ、これなのね。
これが元祖だったのね、って。
でも、ちょっとズルイ気がした。
分かんないよ!
もうちょっと情報公開プリーズ!!ぐぎぎぎぎ。くやしい。


しかし、まあ面白いんだなあ。
ゴシック感満載の舞台装置。
降霊会に霊媒師。
呪いを込めて死んだ男。
男の素性と屋敷の秘密が詳らかになる様子なんて、いかにも冷たい空気流れてますよ~って感じ。
雨、闇、ぬかるみ。
もーう、雰囲気バッチリ。

そして、チャーミングなH・M卿のキャラクター!
次にこの爺さんがどんな悪態をつくのか。
実はそっちの方が楽しみになってしまった。





| J.D.カー/カーター・ディクスン | 19:33 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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