ちった図書室 ~Bibliothèque de Cittagazze~

手当たり次第に読んだ本を手当たり次第に記していこうという、意気込みだけは凄い図書室。目指すは本のソムリエです。

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『三つの棺』

幕開きはロンドンの酒場。
予告された殺人と、かつて墓から蘇った男。
用意された三つの棺。
吸血鬼伝説と復讐。
雪に囲まれた家で起こった足跡のない殺人……。

このオカルトチックな雰囲気に興味をそそられ一気に引き込まれる。
探偵役のフェル博士は、なかなかどうして面白い人物だ。
なにせ、以下のようなセリフを放ってしまうのだから。


「われわれは探偵小説のなかにいるからだ。そうでないふりをして読者をたぶらかしたりはしない(略)隠し立てもせず、もっとも高貴な態度で本の登場人物であることに徹しようではないか(略)」


これこそが有名な 「密室講義」
そしてなんと、フェル博士自ら「興味がなければ読み飛ばしてよろしい」と読者に呼びかける。
ここの章は本編と関係ナイからネ、と。

しかし、関係ないからといって本の世界から読者が追い出されることはない。
部屋の一角で「同席する」栄誉を得ることが出来るのだ。
言い換えれば、「本の中に入れる」。
なんて贅沢な!

勿論、私はメモ用紙とペンを手に飛び込んだ。
フェル博士からちょっと離れた椅子に座った感じ……。
そして、充足感と大量のメモを持って本の世界から帰って来た後、殴り書きを整理してから「読者」に戻ることにした。

本編のトリックに関しては「これ、犯人忙しすぎるんじゃない?いくら……でもさ」という感想。


好き嫌いが分かれる作品ではあるだろう。
創元版のフェル博士とのイメージとも違う。
ハッキリ言えば創元版の博士の方が遥かに魅力的でチャーミングだ。
表紙もなんだか味気ない。
ハヤカワ版には時々こういう本があって困惑する。
そこがちょっともどかしい。

ついでに言うと、角川版のエラリィくんの表紙には「ぐぇぇ」と声を漏らしてしまった。
イメージが全く違う。ヤメテクレ。読む気もしない。

最近のミステリ新訳ブームは、作者からの「講義」から読者同士の「談義」にも繋がりそうだ。





| 長門有希の100冊 | 06:04 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『夏への扉』

久しぶりに再読して「やっぱりいいなぁ」と思った。
ハインラインの描く「未来に対する絶対の希望」は心を元気にしてくれる。


主人公のダニイは発明家肌のエンジニアだ。
相棒はジンジャーエールが好物の猫、護民官ペトロニウスこと愛称ピート。
彼らは絶大な信頼関係で結ばれている。

ピートはダニイの家の人間用のドアをしつこく開けるよう、何度も訴える。
そのドアの先に、雪の降る「冬」でなく光の射す「夏」を探しているのだ。

平穏と思えた日々に、突然ダニイの「冬」が訪れる。
共同経営者と婚約者の裏切り。
そして、なんと冷凍睡眠で30年後の未来へと送り込まれてしまう。

科学の世界は日進月歩だ。
目覚めた先ではエンジニアとしての腕は使い物にならない。
しかし、ダニイは“過去の自分が作った物”「文化女中器(ハイヤード・ガール)」に助けられる。
発明者として会社に籍を置けたのだ。

やがて、ダニイは不思議な物に出会う。
“かつて自分の頭の中にだけあった物”が存在したのだ。
そこには、ダニイと同じイニシャルが設計者として記されていた。

なぜ“在る”のか?
“作った覚えがない”のに?
全く同じ考えを持つ人物が、全く同じイニシャルで存在しているのだろうか?
そんな事があり得るのだろうか?

そして、“未来”に馴染む程強くなる孤独感……。
“過去”に対する渇望。

やがて、ダニイは唯一のチャンスを見い出す。
リスクを覚悟の上で、自らの「夏への扉」を探すことを決意する。

そこからはもう、読んでいる方も気忙しくなるような八面六臂の大活躍!
かつてのピートが信じていたように、ダニイは「夏」を求め、あらゆる扉を開けていく。


とにかくテンポが良いので、主人公が大変な目に遭っても悲観せずにポンポン読める。
文章のリズムが気持ち良い。
福島正実訳の温かさもあるかもしれない。
小尾芙佐訳でSFの世界に入った私としては、そちらも大いに気になるのだが読むかどうかはまだ迷っている。


同作者の 『月は無慈悲な夜の女王』 とどちらが好きか、などとよく比べられる本書。
だが、私は同じSFでもジャンルが違うように思う。
読後感は『夏への扉』が、読書中は『月は無慈悲な夜の女王』が私を夢中にさせる。

ただ、共通する事はひとつ。
未来は自分で作るしかない。
今がたとえ冬だとしても、夏へ通じる扉はある。
絶対にあるのだ、と。
だから

彼は、そのいくつもあるドアのどれか一つが、夏に通じているという固い信念を持っていたのである。

私もピートやダニイと同意見。
だってそうじゃなきゃ、やってらんないっしょ!






| 長門有希の100冊 | 09:40 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『十角館の殺人 <新装改訂版>』

「えっ。……あぁ、そうか。おぉぉ~~!」
ミステリを読んでいて楽しいのはこの瞬間。
ぞくっとくる!
例えるなら、ジェットコースターのラストを飾る、とっておきのハイライト。
所謂“売り”の部分である。

「孤島もの」「館もの」はクローズド・サークル系で最も好きな舞台だ。
それだけでワクワク感が募る。

王道ミステリは書き手の力量が問われるが、この作品が「売れ続けている」ことがまさにその証だ。


閉じ込められるのは、大学のミステリサークルに所属する7人のメンバー。
エラリイ、カー、ルルウ、ポウ、ヴァン、アガサ、オルツィ。
彼らはお互いを作家名で呼び合う。

一応、列挙しておこう。
エラリイ・クイーン、ジョン・ディクスン・カー、ガストン・ルルウ、エドガー・アラン・ポウ、ヴァン・ダイン、アガサ・クリスティ、バロネス・オルツィ。

始めはちょっと気恥ずかしかったけれど、すぐに慣れた。
却って、その作家の個性と登場人物の性格付けも興味深かったりして。

ひとり、ひとり、消されていく恐怖。
心を惑わす奇妙な館。
残されるメッセージ。
そして、犯人による「罪の告白」。

も~~~~、まさに王道!
発表された時のセンセーショナルな様子が、作品解説の熱気から窺い知れる。

確かに確かに。
私も発表当時の読者だったら、驚き、また狂喜乱舞したに違いない。
それはまさに、“時空を超えて出現した”感が今でも分かるからだ。
やっぱり、ぞくっとくる。





| 長門有希の100冊 | 22:42 | comments:0 | trackbacks:2 | TOP↑

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